おおいたをたのしむ
2022年12月23日
人生の“あそび”を楽しむ、日田の自由な映画館「日田リベルテ」
大分県日田市にある「日田リベルテ」って知ってますか?
ここは、映画・カフェ・雑貨・ギャラリー・サロン、なんでも好きなことを楽しめる“小さくて自由”な映画館。ここを目当てに各地から足を運ぶ人がいるくらい、 知る人ぞ知るスポットです。
今回は「日田リベルテ」の支配人を務める原さんに、映画館の魅力や地元日田に対する想いをお聞きしました。
「日田リベルテ」支配人 原
日田のためにできること
原さんは高校生までを日田市で過ごし、卒業後は音楽活動をしながら働いていたそうです。
「レンタルショップと家電量販店で従業員をしていました。音楽・映画やカメラなど、自分の好きなことに関わることができるというのがその理由です。また、お守り業者でも働きました。それぞれジャンルが違う仕事なんですけど、不思議なことにこの経験は今の仕事にも繋がっています」と、原さん。
たしかに、どれも共通点がないような気がしますね・・・。
過去の経験がどこで繋がるのか、みなさんも想像しながら最後まで読んでみてくださいね。
あるとき、原さんの耳に「日田の映画館が閉館するかもしれない」という話が飛び込んできます。
「当時その話を聞いたとき僕は30歳で、周りの友達はみんなマンションや車を買う頃でした。でも、僕はその分のお金を閉館間際の映画館を立て直す事に使って未来への投資にしよう!と決めたんです。今、ここで継ぐ決断をしなければ日田から映画館がなくなってしまうかもしれない。それに、ここで首を横に振ったらこれからの人生でずっと後悔するだろうなと思いました。お世話になった日田への恩返しとして、僕ができるのは映画館を引き継ぐことだと考えた結果が、今のリベルテになっています」
2009年にオープンして今年で14年目になる「日田リベルテ」は、原さんの地元日田への強い想いから始まったんですね。
椅子は以前の映画館から受け継いだもの。肘置き部分には折り畳みテーブルがあるので、映画を観ながらカフェのメニューが楽しめます。
おいしいコーヒーと映画って、素敵な組み合わせですよね。
ワクワクする映画館を作りたい
映画館を引き継ぐことになった原さんがまず目指したのは、“ワクワクする映画館にしたい”ということ。デザイナーさんと共に内装のデザインも手掛けたそうですよ。
以前は両開きのドアだった入り口を、場所を変えて小さなドアに変更したんだとか。小さなドアから入って広い空間に出ることで、「大きな映画館が奥にあるんだなぁ」と言ってもらえるようになったそうですよ。
実は、オープン当時は館内にもう1つ小さなスクリーンを作ろうという計画があったそうですが、待合室との距離が近く話す声が聞こえてしまうため、映画に集中できないということが分かり、泣く泣く断念したんだとか。
やってみないと分からないことってありますよね。
原さんが考えていた“ワクワク”は今、どんな形で表されているのでしょうか?
「小さなスクリーンが難しいと分かったので、そのスペースをギャラリーにして絵や作品を見てもらおうと考えました。並んでいるアーティスト作品は、まだあまり知られていないけれど、10年・20年後に巨匠になるのでは?というものばかり。実際にみんなが今では著名作家になりました。不思議がられますが、いいものはいいのです。ギャラリーだけじゃなく、展示・販売している雑貨や日田の
リベルテをオープンする前は、有名・無名問わず、作品を見て“いいな”と思ったアーティストに原さんが自ら声を掛けていたんだとか。
「オープンしてからは、実際にリベルテに来てくれる方々と一緒に活動していますが、選ぶ基準は当時と変わっていません」と原さん。
映画館の支配人でありながらも、若手アーティストや海外で活動しているシンガーソングライター、絵本作家とも親交がある原さんの元には、さまざまなアーティストが各地から訪れるのだとか。
画家 牧野伊三夫さんの壁画の上には、画家・絵本作家のミロコマチコさんの『牧野さんの絵を狙うネコ』というサインも。
待合室に展示販売されているさまざまな作品も、原さんが心から好きだと思うもの。
ぜひギャラリーや待合室の作品もじっくり鑑賞してみてくださいね。
リベルテの自主レーベルを立ち上げ、日田をイメージして作ったギターソロ作品;青木隼人『日田』
自由の中に、日田がある
映画を観るだけに限らず、さまざまな芸術作品に出会える「日田リベルテ」。
そもそも“リベルテ”とはどういう意味があるのでしょうか?
「リベルテはフランス語で『自由』という意味があります。いろんなアーティストの作品が見られるし、もちろん映画館なので映画を観るもよし、カフェでコーヒーを飲むもよし、自由な場所にしたかったんです。あと、自由という漢字の中に“日田”の文字が隠れているというおもしろさもあって、気に入ってます」
『自由の中に日田』は、原さんから聞くまで気づきませんでした!
ちょっと視点を変えるとおもしろいものが見えてくるという、原さんらしい考えだなと感じます。
誰も教えてくれない、人生の教科書
昔から映画が好きだったという原さん。
原さんにとって映画とは、どんなものですか?
「人生の教科書のようなものかな、と思います。たくさんいろんなジャンルの映画を観ておくと、そのときは分からなくても人生で悩んだときに“もしかして、あの映画はこのことを表していたのかな?”と気付かせてくれたりするんです。僕自身が映画に救われたので。映画は誰かの人生を見ることだと思うんです。それって、学校では教えてもらえない部分ですよね。将来、自分のお手本になったり共感したり、1本の映画が人生を変えるかもしれないところが、映画の魅力かなと思います」
人生もフィルムのように“あそび”を作る
現在、リベルテで上映する映画はデジタルとなっていますが、かつて原さんが引き継いだ頃はまだフィルムを使う映写機が残っていたそうです。原さんは、そんな映写機の仕組みと人生はすごく似ているのだといいます。
映写機の仕組みと人生・・・?うーん、ちょっと難しそうですね。
「映写機で使うフィルムは1秒間24コマで、映像のまわりに枠があります。パラパラマンガのようなイメージで、フィルムを流しながらレンズを通して1コマずつスクリーンに映し出すのですが、そのフィルム部分の両脇に少し『たわみ』を作っておくんです。これを“あそび”といいます。あそびを作らずぴったりにしてしまうと、余裕がなくなって切れてしまう。これは人生と似ていて、いろんなところに余裕を持っておかなければ何かトラブルがあったときに、プツンと切れてしまうんですね。人生の中で大切なあそびを作るきっかけとして、映画を観ることやそういう場所を持つことはいいことだな、と思います」
関連のないものだと思い込むことも、余裕のなさが出ているのかな?と思ってしまうほど。映画って哲学に近いものがあるのでしょうか。深いなあ・・・。
芸術=文化=お金とは限らない
さまざまな活動をする原さんですが、なんと大学の講師も務めているそうです。「芸術経営論」という学科で、名前の通り芸術で経営をするために必要なことを学ぶというもの。
「芸術は文化であってお金ではないと言いながらも、実際は経営をしているのでそれなりの大変さがあります。特に、僕の場合は地元に映画館を残したいという想いがあるので、日田市でフィールドワークをしながら授業をしています。実際に経験すると入ってくる情報量が圧倒的に違うので、楽しいんです」
原さんの元気の源は?
日田へ恩返しをしたい、と映画館を引き継いだ原さんの行動力とパワフルさに驚くばかり。そんな原さんの元気の源は一体何なのか?また、これからのリベルテについてもお聞きしました。
原さんの元気の源を知るべく、まずやってきたのは日田駅前の大衆食堂「
普段の食事はもちろん、リベルテで行われるアーティストのライブの打ち上げでもよく利用するそうです。
原さんは「ヤブクグリ」という日田の林業を盛り上げていく活動チームに所属していて、寳屋で作っている名物弁当「きこりめし」の誕生にも携わり、宣伝係としても活動しているのだとか。
「きこりめし」については以前カテテでもご紹介しているので、ぜひご覧くださいね。
日田生まれの「きこりめし」、知ってる? #ヤブクグリ
寳屋メニューでのおすすめをいただきました!
日田ちゃんぽん
とり天
高菜巻き
高菜の漬物に山芋などが巻かれた食べ応えのある「高菜巻き」は、寳屋の名物なんだそうですよ。
「ここは、どれもおいしくて食べると元気をもらえます」と原さん。
続いては、原さんが大好きだという「
三隈川は、水面に建物や風景が反射する光景が美しい“
日田の市街地が一望できる公園や、神社にも案内していただきました。
日田市の有形文化財に指定されている「大原八幡宮」の本殿には、鏡があります。三隈川の水鏡、鏡坂公園、そして神社にも鏡。不思議な繋がりですね。
日田は「鏡の町」だと原さんはいいます。
このお話も奥が深そう…!次回の楽しみができました。
神社のような場所でありたい
今回、原さんが神社を案内してくれたのは、リベルテは“神社のような場所でありたい”という想いがあるから。
「みんなでわいわいすることはもちろん楽しいけれど、ちょっと苦しいときや疲れたとき、パワーが欲しいときに救いのようなものというか、
その言葉で、全てのことが腑に落ちた気がします。
「太古の昔から変わらぬ活動があるということ。それを、今は文化と言っているのかもしれません。僕は、そのことを映画や創作活動、人間関係での経験から教わりました。映画は人生を変えてくれる教科書ばかりです。みなさんも、いい教科書に巡り会えるといいですね。そのためには、映画をたくさん観ましょう!」
地元を愛し、人と人との繋がりを大切にして、芸術の素晴らしさを広めようという温かい想いのある原さんがいるからこそ、「日田リベルテ」はたくさんの人に愛されているのだな、と感じます。
私も、近くの映画館に通うことにしました。それが私を、そして映画館を支えることにも繋がるから。
- 日田リベルテ
WRITER
- 日名子 真衣記事一覧
猫とパンを愛してやまないママライター。食べ歩きと写真を撮ることが趣味です!美味しいものを探して、相棒のカメラと一緒に大分県内を旅します。将来の夢は、縁側のある家で猫とのんびり暮らすこと。
大分県日田市出身。「日田の映画館が閉館するかもしれない」という話を聞き、2009年に前オーナーから引き継いで「日田リベルテ」をオープン。現在は「日田リベルテ」の支配人を務めるほか、大学講師をはじめ様々な活動を通して、文化を未来に繋げています。