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おおいたをたのしむ

2023年05月26日

地域と共に新たな時代の生き方に挑む
キッチン付きシェアスペース 柳家

日本唯一の“サンドイッチ型城下町”と呼ばれる珍しい街並みが今も残る杵築市。その城下町の一角で、ランチやカフェ、リラクゼーションサロンなどの店舗が開業前にチャレンジショップとして営業でき、また日替わりでいろいろなメニューが楽しめる話題のスポットがあると小耳に挟み、早速杵築市へ車を走らせました。

城下町に残る記憶を存続させるために

地域と共に新たな時代の生き方に挑む キッチン付きシェアスペース 杵築 柳家

北台武家屋敷から柳家に続く通り

江戸時代の風情漂う杵築の城下町は、北と南の高台にある武家屋敷を繋ぐために大小合わせて20もの坂があります。その坂の一つ、杵築藩を栄えさせた豪商が軒を連ねた「富坂」を上ると、2階建ての趣ある建物が見えてきました。

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ここは明治4年(1871年)に創業し、周辺に立ち並んでいた遊郭のお客さんが通う料亭として繁栄した「柳家やなぎや」。現在の建物は昭和元年に新築し、それからは食堂としてにぎわいました。

柳家はちゃんぽんが人気で、足しげく通う古くからの常連客も多くいたそう。しかし令和になって創業から150年を迎えようとした頃、店主夫妻が高齢になり後継者もいないこともあって、建物自体も取り壊し、その歴史に幕を閉じようとしていたのでした。

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そこで立ち上がったのが、店主夫妻の長女 小倉 倫子のりこさん。
「杵築で長年親しまれてきた味と、角地の建物がなくなることは、まちの印象や活気を消すことになるかもしれないと思ったんです」。

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小倉 倫子さん

小倉さんは悩んだ末、今の時代に合うスタイルで柳家を残し、地域のにぎわいを保っていこうと決心。食堂だった柳家の厨房を最大限に生かせる「キッチン付きシェアスペース」として2020年から再び動かし始めたのです。

趣ある渋い佇まいがたまらない!

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新たな役割を担う場所となった柳家の佇まいは、食堂だった頃のまま。入り口に貼られたカレンダーには、その月にシェアスペースで営業する店舗名やメニュー、イベントのお知らせなどがびっしりと書き込まれています。バラエティーに富んだお店が毎日代わる代わる楽しめるのが柳家の特徴で、連日足を運びたくなる仕掛けになっています。

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店内は城下町になじむレトロな雰囲気を残しながらリフォームを施して、カウンターやテーブル席、座敷が用意され、どんな店舗にも対応できるつくりに。元食堂の間取りが生きた開放感ある厨房には食器や調理器具がずらりと並ぶ棚と、室内にたっぷりと自然光を取り込む窓があります。
「今日は何の店が営業しているかな?」と、通り沿いから柳家のにぎやかな様子をちらりとのぞく人も。

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2階の大広間では鍼灸や整体などのリラクゼーションサロンをはじめ、コンサートやギャラリー会場、会議室、ママさんサークルでの利用など、事業以外での活用も◎。

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ワインセラーを兼ねた地下室は、打ち合わせやリモートワークのスペースにもおすすめ。柳家の使い方は十人十色です!

常に回り続ける!驚異的な稼働率

柳家が食堂からシェアスペースに姿を変えてから、どのように稼働してきたのか小倉さんに話を伺いました。
「現在は40から50ほどの事業者や団体、個人の方に活用していただいていて、月に200パーセント稼働しています」とのこと。

に…200パーセント!?

「朝活や、移動販売などの仕込みをする方のキッチン利用が朝7時から始まり、お昼は高齢者サロン、ランチやカフェの営業、子ども食堂、夜はバルなど、多い日は1日5回転することもあります」。
定期的に利用の予約をする店舗も複数あり、希望時間のタイミングをうまく組めば、日替わりでいろんな店が常にオープンしている仕組みになっているのですね。

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バラエティ豊かな飲食店のほか、整体やリラクゼーションサロンの営業も。

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たくさんのお店が営業する中で、食堂だった柳家の代表の味であるちゃんぽんを小倉さんのご両親がつくる曜日もあるとのこと。週に数回の営業がご両親のやりがいであり、昔から訪れている常連さんにとってもホッとできる憩いの場となっているそう。そうやって変わらない味が守られているのですね。

コスパもタイパも最強!メリットだらけの起業準備

杵築市外で店舗を運営しながら柳家で時々営業をする方や、料理やお菓子の移動販売、委託販売の製造に柳家の厨房を利用する事業者もいるとのこと。特にこれから開業を考えている人にとって、柳家をスタートアップの場所として使うことに大きなメリットがあると語る小倉さん。

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「食堂だった柳家のキッチンは、スペースも作業台も広く、ガスコンロの口数も多い。設置している調理器具や食器も自由に使えるので、足りないものだけ持ち込めば最小限の準備ですぐに営業ができます。独立する時がきたら、キッチンのつくりや導入する備品はどんなものがどれだけ必要なのか、柳家にあるもので試すことができるんですよね。さらに柳家が食堂として営業していた頃の常連のお客さまが今も足を運んでくれていることと、さまざまな店が毎月、毎日入れ替わることから、お客さまが相互に興味を持ってくれるんです。柳家での営業を通じて、開業前からSNSのフォロワーを増やすことにもつながったりと、ポジティブな相乗効果が生まれています」と小倉さん。

柳家がキッチン付きシェアスペースになったのはコロナ禍の真っただ中だったにも関わらず、オープンからわずか3年間で9つもの事業者が柳家から起業した実績がお墨付きとなっています。しかもいずれも自治体の補助金なしでオープンがかなったそう。起業の準備がスマートに整い、最強のスタートが切れるわけです。

地域活性化に繋ぐ起業サポート

小倉さんが柳家を運営する中で大切にしていることをたずねると、二つのことを教えてくれました。
一つは「老舗と新規、そして福祉のバランス」だと語ります。
「柳家のお客さまとのつながりは、地元の方との厚い信頼で成り立っています。そして新しく事業に挑む方や若者のフレッシュなパワーと、地元の高齢者の方たちにも楽しんでもらうための場づくり、これが揃うことでみんなが事業を成功に導くことや楽しむことができ、地域ににぎわいを生むことができると思っています」と小倉さん。

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出店者の中にはカフェに挑戦した大学生も。
「若者が柳家を利用してくれることで“杵築っていいところですね”と声を発信してくれて、それが地元の良さを再確認するきっかけにもなるんですよ。子ども食堂では、地元の高校生が配膳の手伝いにも来てくれて。社会経験にもなると思いますし、地域と子どもたちとの繋がりをより深めていくことも大切だと実感しています」と、若い世代への地域の魅力の継承にも柳家が一役買っているのです。
また老後の楽しみとしてご高齢のグループでそば屋を出店する団体も。子ども食堂から高齢の方が営むそば屋まで、柳家での営業が幅広い世代へのやりがいになり、さらに多彩な店舗が集うことでお客さまの層も広がり、相乗効果をもたらすことができるのですね。

地域と共に新たな時代の生き方に挑む キッチン付きシェアスペース 杵築 柳家

もう一つは、城下町の空き家対策への貢献も課題にしていること。
「柳家での出店をきっかけに、古民家やレトロな雰囲気の店舗を選ぶ人が多く、杵築周辺で起業した人は空き家を買い取ってリフォームし、オープンしたケースもあります。城下町が再び元気になっていく姿を見られるのは本当にうれしいです」と、小倉さん。
柳家のすぐそばの空き家で花店をオープンした姉妹や、柳家のシェアスペースを参考にして新たにフリースペースをオープンした築180年の建具店など、少しずつにぎわいの輪が広がっています。

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柳家から起業した花屋「玄花」

起業者にも移住者にも心強い味方

起業を目指して柳家を利用するのは大分県在住者だけではないそうで、最近は大分への移住者とのパイプもできています。
今回の取材時に営業をしていた「369cafe」は、埼玉県と兵庫県から国東市へ2022年に移住したお二人が営む、グルテンフリーのスイーツと和スープカレーの店。柳家での営業についてお話を聞いてみました。

地域と共に新たな時代の生き方に挑む キッチン付きシェアスペース 杵築 柳家

「いつかカフェをオープンすることが夢で、大分県に移住しました。誰も知らない土地でいきなり店を始めるのはハードルが高かったのですが、偶然出合った柳家で出店できることになり、大分での新生活の体制を整えながら、自分のやりたいことに挑戦できるのはとても効率がいいと感じます。料理の味も、接客も、すべて試しながら学ぶことができています」とのこと。

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地元の人たちや市役所、商工会とのつながりを築いている小倉さんから多角的なアドバイスがもらえることも、柳家で創業準備をする大きなアドバンテージとなっています。また同じように柳家で出店している人同士が知り合いになることもあるそうで、大分のことや起業についての情報交換ができる貴重な人脈づくりの場にもなっているそう。
強い味方に囲まれた柳家でのスタートアップは、すべてがポジティブに作用することばかり!

地域と共に、にぎわいを

城下町の景観の保存、起業のサポート、移住者の心の拠り所、そして空き家対策のきっかけと、何役もこなす柳家。
2023年は2階をゲストハウスにする計画が控えています。

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「城下町がかつて商人の町だった頃のように、これからの新しい時代でも地元の人たちに生きがいとにぎわいをつくることが私の願いであり、これからの夢になっています。固定概念にとらわれない自由な発想で、柳家を“0番目の相談窓口”として活用してほしいです」と小倉さんが最後に話してくれました。
小倉さんの描くこれからのまちの姿を想像するだけでワクワクが止まりません!
ぜひ柳家にランチやお茶をしに出かけて、どんな事業がこれからデビューするのかのぞいてみてください♪
柳家に足を運べば、みなさんにも新しい夢や未来へのヒントが見つかるかもしれません。

柳家
〒873-0001 大分県杵築市札ノ辻1143
TEL:0978-62-2019(代表)
https://k-yanagiya.com
営業の詳細はInstagramをチェックしてくださいね!
Instagram:https://www.instagram.com/yanagiya.k/?hl=ja

WRITER

  • 牧 亜希子
  • 牧 亜希子記事一覧

    planner/writer。特に大分県の観光情報が得意な自称「勝手に大分県の魅力案内人」。友人からのリクエストで旅行プランを立て、アテンドすることも。 特技/取材や撮影に行くことが多いにもかかわらず、「超」が付くほどの雨女。私の行き先ではかなりの確率で降らせます。取材先の皆様、ご了承くださいませ。

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