おおいたをたのしむ
2022年10月14日
若き料理人が営む新しい八百屋 「あっちむいてホイッ!」
オフィスビルや官公庁が立ち並ぶ大分市街地で、2022年2月に八百屋がオープンしました。看板に書かれた店名は「あっちむいてホイッ!」。
扉を開けると、かごに盛られた旬の野菜と、レジ周りにはお弁当やお惣菜がずらりと並びます。昔ながらの八百屋さんのような雰囲気。
店主の佐野良太さんは、大分市出身の25歳。高校の調理科で料理の腕を磨き、県内の病院の調理師として就職しました。しかし、もっといろんな料理を学びたいという気持ちが強くなり、単身大阪へ。イタリアンとフレンチの世界に飛び込みました。
修行を続けていましたが、昨今のコロナ禍の影響を受けて大分県へ帰郷。起業することを決め、生まれ育った地元で八百屋を開店しました。
大分県の農業の現状に愕然
佐野さんの起業のきっかけは、たまたま目にした「大分県農業非常事態宣言」と書かれたネット記事。農業従事者のほとんどが65歳以上を占め、農業産出額の落ち込みや担い手不足により大分県の農業が危機的状況だということを知り、ショックを受けたそう。農業に対してはもともと興味を持っていたため、「どうにかしたい」という思いに駆られたといいます。
「大分の農業について調べるうちに、助成金が手厚いことなどもわかり、遊休農地を活用してビニールハウスで継続的に作物をつくりたいと考えるようになりました。その前に、頑張っている農家さんをサポートできる独自の販路を立ち上げようと、卸小売業をするためにこの八百屋を開店したんです」。
無駄な野菜はない。ロスを出さない売り方
佐野さんが開業した八百屋「あっちむいてホイッ!」は、高校時代の友人と2人で運営しています。気になるのは店名の由来。
「ありきたりな名前ではなく、インパクトのあるネーミングにしたかったんです」とのこと。子どもでもすぐに覚えられそうな楽しい名前で、間違いなく印象に残りますね。
名前だけでなく、商品を卸す際の野菜の選び方にもこだわりがあります。それは、不ぞろいや訳ありの、いわゆる“B級品”を選んでいること。
「スーパーなどに並ぶ野菜のほとんどは形や大きさなどの基準をクリアした見た目が美しいもの。曲がっていたり、大きさが合わない野菜は、品質は変わらないのに市場に出すことができません。B級品の野菜は安価で仕入れることができるので、手ごろな値段で消費者へ届けることができますし、野菜の廃棄を少しでも減らすことにつなげたいという思いもあります」と、こだわりを語ってくれました。
また家庭で使いきれなかった野菜が廃棄されることのないように、袋詰めではなく一つずつバラ売りで購入できる販売スタイルを取るという配慮も。ロスをなくし、SDGsの考えも意識した、農家も消費者も幸せになれる販路を開拓することが「あっちむいてホイッ!」のポリシーです。
自ら卸す野菜を生かした手作りのお弁当
野菜の販売に加えて、店で取り扱う野菜を使った自家製のお弁当や惣菜も販売しています。旬の野菜や果物をふんだんに取り入れたお弁当を目当てに、お昼時の店内はたくさんのお客さんであふれます。お弁当のレシピは佐野さんが考案し、仕込みもご自身で担当。
「最近力を入れているのは無水カレーです。試作を重ねてやっとできました! 6つのスパイスを使い、野菜の旨味が凝縮された味なんです」と、これまでの飲食店での修行の成果を発揮して、さまざまなメニューを開発中。周辺の官公庁やオフィスにもお弁当を配達しているそうで、多い日は2人で100個近くつくる日も。
「お弁当を仕込むのは本当に大変ですが、毎日楽しみに待ってくれているお客さまの存在がやりがいです」。
ボリューム満点でヘルシーな「自家製の鶏ハムBOX」が人気なのも八百屋ならでは。野菜の鮮度をできる限り高く保てるように、「50度洗い※ 」のひと手間を欠かさないなど、佐野さんのこだわりと心遣いが随所に感じられます。店で取り扱う野菜をお弁当に使用しているので、店頭の野菜はほとんどロスがありません。いかに野菜を無駄なく使うか、柔軟に考えながら商品にしています。
※50度前後のお湯で食材を洗うことで、収穫後に閉じた野菜の葉の気孔(水蒸気が出入りする穴)を熱のショックで開かせ、細胞に水分を吸収させてみずみずしくさせる方法。
「食の道に進んだのは、実家の影響も大きいですね」と話す佐野さん。なんと佐野さんは、大分で人気の焼肉店「第二食道園」の息子さん。第二食道園のたれを使ったビビンバも人気メニューとして佐野さんがつくって販売しているので、第二食道園の味を「あっちむいてホイッ!」で購入できるというお得情報をここでこっそりとお伝えしておきます♪
農業、ECサイト…まだまだやりたいことだらけ!
野菜の仕入れやお弁当づくりと、忙しい毎日を送っている佐野さん。お客さまとのコミュニケーションの中からたくさんのヒントをもらい、需要に答えるためにトライ&エラーを繰り返しています。
「農業を自分でやることが最終的な夢ですが、今は八百屋としてできることからしっかり土台づくりをしているところです」とのこと。今後はフルーツを使ったスイーツや、現在お弁当で出しているカレーをレトルトにした商品を全国、世界中から購入できるようにECサイトの準備を進めているそうなので、乞うご期待です!
SNSでのお知らせを待っていてくださいね。
その他にも、女性向けのお弁当や、病院食をつくっていた経験を生かし、高齢の方たちが食べやすいように調理したお弁当も手掛けていきたいとのこと。佐野さんの活躍の場はいろんな方面に広がっています。
野菜を介して大分に貢献したい
佐野さんの目標は地産地消で地元・大分県に貢献すること。
「挑戦せずに後悔はしたくありません。周りから無理だと言われた起業ですが、今は軌道に乗り、たくさんの人にお店を知ってもらえつつあります。自分たちがどこまで通用するのか、野菜を通じてチャレンジし続けたいです」と、これからの展望を熱く語ってくれました。
野菜のおいしさを伝え、大分県の農業を上向きにしたいという佐野さんの強い思いには、たくさんの可能性が詰まっています。農業を守るために真剣に考えて仕入れた野菜を使い、切磋琢磨してつくり出す味を、ランチや夕飯の一品に、ぜひ一度味わってみませんか。
- あっちむいてホイッ!
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住所:〒870-0045
大分県大分市城崎町3-2-30
TEL:080-4314-8120
営業時間 9:00~17:00(土曜は10:00~)
定休日 日曜・祝日
https://www.instagram.com/kimochiichiba/?hl=ja
WRITER
- 牧 亜希子記事一覧
planner/writer。特に大分県の観光情報が得意な自称「勝手に大分県の魅力案内人」。友人からのリクエストで旅行プランを立て、アテンドすることも。 特技/取材や撮影に行くことが多いにもかかわらず、「超」が付くほどの雨女。私の行き先ではかなりの確率で降らせます。取材先の皆様、ご了承くださいませ。