おおいたをたのしむ
2020年11月13日
今、新しい働き方として注目すべきは大分の農業なのかもしれない。
鍋料理の登場が増えてくるこの季節。みなさん、お鍋の材料は何がお好みですか?
おなじみの冬野菜をはじめ、肉厚のしいたけ、そのお出汁がしみた冠地どり、おつゆには、かぼすをぎゅっと絞り、ゆずごしょうをピリリと利かせ、そして麦焼酎をぐいっと…。大分オールスターズのお鍋が一番贅沢でおいしいと大分県民は思っているはず。しかしそこに忘れてはならない、大分が誇る産品である小ねぎ、“大分味一ねぎ”をどっさりと投入するのが私流の食べ方です。
え、小ねぎって、仕上げに添える薬味のイメージしかない、ですって? しゃきしゃきとした食感と甘味たっぷりの大分味一ねぎは、脇役にはとどまりませんよ!
ブランド名を「大分味一ねぎ」と銘打つ大分の小ねぎは、大分県北部・東部がメインの生産地。その生産量全体の5~6割が東京・大阪・広島などの大都市に出荷されています。
特に生産が盛んな宇佐市で、5年前に茨城県から移住して小ねぎ農家となった内田和寿さんにお会いしてきました。
内田さんが茨城県から宇佐市へ移住したきっかけは?
県下最大の穀倉地帯が広がる宇佐平野。県道629号線に並行して、大分味一ねぎを栽培するビニールハウスがずらーーーっと並んでいます。その中の24棟が内田さんのビニールハウスです。内田さんは茨城県で企業の水産部門に勤めていました。鮮魚を扱う気温の低い環境で長年働いていたことが原因で体調を崩してしまったのです。
これからの人生、まだまだ働き続けるために暖かい土地に行こうかな、と最初はざっくりと移住について考えるようになったそう。
「行くなら四国や九州などの西のほうだな、と。しかし農業をするなんて1ミリも考えていなかったんですよ」
田舎暮らしの本を見て、大分県の豊後高田市や宇佐市の存在は知っていました。東京でUIターンの相談ができる機関があることを知り、奥様と一緒に行ってみようかという話になり、農業フェアに足を運んだ内田さん。そのイベント会場のブースで宇佐市役所の担当者とたまたま話をして、農業体験をしに一度大分に来てみませんか?と誘われたそう。前職時代に大分県出身の人がいたことと、大分の漁協を知っていたこともあり、大分のイメージは悪くなかったと言います。
家族旅行感覚で宇佐に訪れた内田さんは、農業うんぬんよりも、宇佐で農家として働く人たちの姿がとても楽しそうに目に映ったそうです。
「大丈夫そうじゃない、やってみたら? と最終的に背中を押したのは嫁さんで、私は最後まで迷っていたんですけどね」奥様の一言がなければ宇佐で農業はやっていなかった、と内田さん。大分以外の場所も考えたそうですが、めぐりあわせですかね、しっかりと詳しい話を聞くことができたのが大分県だけだったそう。内田さんは大分にご縁があったとしか思えませんね。
決め手になったのは就農者のサポート体制
移住と農業の話を具体的に聞けて、実際に足を運ぶことにつながったのは大分県だけでした。決め手になったのは、宇佐市に新規就農者が無料で実習を受けられるトレーニングファームセンターがあり、そこで大分味一ねぎの生産のノウハウが学べ、機械や設備が充実していたこと。さらに販路が整っていたことも移住を決めた理由のひとつ。収穫した大分味一ねぎをJAが一手に引き受けて出荷するので、自分で販売先を探す必要なかったことが大きかったそう。移住をして、しかも異業種で働くことを考えると、それは確かに心強い。そして農作物が小ねぎだったということも農家の道を選ぶことにつながったと内田さんは言います。
「小ねぎは周年栽培なんです。サラリーマンをしていた私にとっては、毎日仕事があるということがよかった。年に1回、2回と収穫時期が決まっているほかの農作物より、通年で収入が得られるという安定感がある。だから農業をやろうと決意できたんです」
宇佐に移住して、大分味一ねぎの生産者となり、とにかく部会のみなさんの仲の良さに助けられているそう。
「30代後半から40代前半が主力となっているメンバーは、農業とはまったくの異業種からスタートする人も多い。なので、新しい知識やアイディアがあふれているんです。60代、70代のベテランの方たちも、そんな若手の話や意見にも耳を傾け、みんながそれぞれの話を参考にしたり、お互いのビニールハウスに見学に行ったりと、情報交換も盛ん。新しい機械や栽培方法を取り入れることになんの抵抗もないですし、むしろ積極的ですね」
新規就農者へのウェルカム感がハンパないという宇佐支部の部会の面々に温かく支えられていることが、エピソードの一つ一つから伝わってきました。
内田さんの1日のスケジュールは?
- 収穫の時間帯はそれぞれ農家さんにより生活スタイルで異なるとのこと。内田さんは早朝からスタートして午前中いっぱいで収穫作業は終了。
- 平均労働時間6~7時間 一般的なサラリーマンよりも断然短い!
- サラリーマン時代のように残業がない!
ただし、土日関係なく、ほぼ毎日ビニールハウスには足を運びます。子どもの学校行事などがあるときは、前もって作業をしておいて、その日は休めるように自分で段取りができます。
(宇佐に来て初めて子どもさんの学校行事に参加できるようになったそうです!)
農業って、実はセンスが必要
農業は体力勝負で、毎日忙しく休みも取れない…という勝手なイメージを持っていました。
「負担がかかる作業は機械に任せるなど、若い人ほど機械を導入してなるべく効率よく作業ができるように工夫していますよ。服装も作業着ではなくてオシャレな人もいますしね(笑)。重労働ではないですし、今では女性一人で農家をしている人も増えました。実際に農業をやってみて、今までのイメージが覆りました」
はい、まさにお話を聞いてそう感じています。内田さんもカジュアルファッションでお仕事されていました。
「種をまいて野菜を育てることは、子どもや動物を育てるのと同じ。常に気にかけて栄養や水を欲しそうだなと感じたタイミングで与えてあげる。毎年天候も同じではありませんし、ビニールハウスごとに土の様子も違います。経験も必要ですけど、感覚的に気が付いてどう対処できるか、農家ってセンスが必要なんだと先輩方に教わりました。ベテラン農家さんも、農作物は一生勉強だと言います。大変ですけど、そこがおもしろいところですね」
内田さんの大分味一ねぎ農家としてのやりがいは?
ズバリ収入面はいかがですか?と質問してみました。「サラリーマン時代より今のほうが少しゆとりがありますね。農業次世代人材投資資金という国の補助金やそれぞれの県、市町村からの就農支援はいろいろとあるので、新規就農者は安心して大分に移住できますよ」と強く語ってくれました。
今後はビニールハウスの規模を広げて、宇佐で土地を買い家を建て、大分味一ねぎとともに地域に根付きたいという夢も。それをかなえるためには、年間を通して高単価時期を取りこぼさないために、常に質の良い小ねぎを生産し、毎日出荷していくことが内田さんの目下の使命であり、やりがいとなっているそう。
前職時代に体調を崩し、ずっと薬を飲み続けていた内田さんですが、宇佐に来てからその薬は一切飲むことがなくなり、風邪を引くこともないそう。大分の豊かな環境と、免疫力を高めてくれる大分味一ねぎの恩恵は大きいのかもしれませんね。
ますますお元気で、これからも大分の農業を支えてくださいね!
農業を支援する大分県の農業人材バンクがスタート
ライフワークバランスやテレワーク、ワ―ケーションなど、これからの働き方が見直されている昨今。地方への移住や農業への転職も注目を集めています。高齢化や後継者不足などの課題解決と、新規就農者へのサポート体制として、大分県では佐伯市・竹田市で農業サポートのための人材バンクがスタートしました。
人手不足や繁忙期のフォローを目的とし、サポートを求める農家と、農業を手伝いながら一緒に盛り上げたいというサポーターをマッチングさせ、大分県の農業の活性化を図っています。農業に興味がある方、農業体験感覚でまずは気軽に農家さんをお手伝いしてみませんか?
- さいき農林業サポート人材バンク
- たけた農業サポート人材バンク
- 大分味一ねぎ
WRITER
- 牧 亜希子記事一覧
planner/writer。特に大分県の観光情報が得意な自称「勝手に大分県の魅力案内人」。友人からのリクエストで旅行プランを立て、アテンドすることも。 特技/取材や撮影に行くことが多いにもかかわらず、「超」が付くほどの雨女。私の行き先ではかなりの確率で降らせます。取材先の皆様、ご了承くださいませ。
1年を通して平均的な内田さんの働き方
3:00 起床
4:00~収穫作業
7:00 帰宅(学校に行く子どもさんと朝食)
7:30~その他農作業(施肥、播種、防除、除草、翌日の準備など)
12:00ごろ 終了(時期や作業内容によって変動あり)
昼食後、伝票整理や経理などの事務作業、生産者同士の情報交換など