おおいたをたのしむ
2019年10月31日
開催間近!!
見逃せない、パラアスリートたちの熱戦
提唱者、中村裕博士の功績
来たる2019年11月17日に、大分国際車いすマラソンが開催されます。今年で第39回、来年は40周年!
大会を1か月後に控えたいま、日本の障がい者スポーツのさきがけとなり歴史を刻んできたその魅力に迫るべく、大会事務局を取材してきました。お話を聞かせてくれたのは、古澤直樹さん(大分県福祉保健部障害者社会参加推進室)です。
まずは、大会のなりたちのお話を・・・となるとこの方を語らずには始まりません。大会の提唱者である、中村裕(なかむら・ゆたか)博士です。
別府市出身の中村先生は、いまから60年ほど前、国立別府病院(現別府医療センター)で脊髄損傷患者の治療にあたっていました。当時の日本では、まだリハビリテーションという言葉に馴染みがなく、手術や治療で健康は回復しても、退院後、人目を避けて自宅や療養所で過ごすのがあたりまえでした。
そんな状況を変えたいと、中村先生は1960年、イギリスのストークマンデビル国立脊髄損傷センターに留学。そこで目の当たりにしたのが、車いすに乗ったままバスケットボールを楽しむ身体障がい者たちだったのです。社会復帰に必要な身体能力を高めるため、また心のリハビリのためにもスポーツが奨励されていたのでした。これに感銘を受けた中村先生は、帰国後、日本でも障がい者スポーツを勧めようと誓います。しかし現実は厳しく、患者の家族からも医師仲間たちからも、事故や病気に苦しんだうえ「これ以上つらい思いをさせるのか」と猛反対されたのです。
それでもあきらめずに声をかけ続けたある日、ひとりの高校生が車いすバスケットボールに挑戦することに。その姿に触発されて、多くの人がスポーツでのリハビリに取り組み始めました。中村先生の献身的なサポートもあり、やがて患者たちも「日本中の障がい者たちにスポーツの素晴らしさを伝えたい」と言い出し、1963年、障がい者スポーツの国際大会であるストークマンデビル競技会に参加することに。このとき中村先生は、マイカーを売ったお金で2人の選手をイギリスに連れて行ったのですが、それが、アジア初の選手でした。そして少しずつ障がい者スポーツへの理解が広まり、中村先生は1964年の東京パラリンピック招致にも尽力。選手団長を務めました。その翌年、障がい者たちの職業的自立を目指した、太陽の家が創設されました。
世界初!車いすの単独レース
さて、そんな中村先生が車いすマラソンを提唱するきっかけとなったのは、100年以上の歴史がある「ボストンマラソン」でした。1975年、ボブ・ホールという車いすの青年が、参加資格をめぐって訴訟をおこし、初めて車いすでレースに参加、完走したのです。この話題が日本でも広まると、車いすで別大マラソンに参加したいという人が出てきました。
さっそく動き出した中村先生。しかし、足で走るのと車いすで走るのとはスピードも違いますし、ルールにそぐわず、危険もともなう・・・など諸般の事情で実現には至らず。同等に勝負するための整合性が焦点だったんですね。ただ、当時の平松守彦大分県知事、大分陸上競技協会らの賛同もあり、折しも1981年の国際障害者年にあわせ、記念行事として「世界初の車いす単独レース」を開催することが決まったのです!
第1回大会は1981年11月1日、参加14か国、117名の選手が集まり、ハーフマラソンのみで開催されました。そのゴールシーンが、この写真。
2人の選手が、友情のしるしとして手をつなぎ同時ゴールしています。「感動のシーンやなあ♡」と思いますよね? ところが、これに異を唱えたのがほかでもない中村先生!
「レクリエーションではない。勝敗を競うスポーツだ」と主張し、判定により1位と2位をハッキリと決めたのです。
このジャッジは、マスコミから非情だとバッシングを受けたそうです。しかし、中村先生の判断があったからこそ、トップアスリートが集う世界屈指の大会に成長したのですね。
フルマラソンがスタートしたのは、第3回大会から。その翌年、中村先生は病に倒れ57歳の若さでこの世を去りました。第4回大会では、黙とうが捧げられ、朝から降っていた雨がスタート直前にすーっとやんだそうです。
「OITA」は世界共通語!
創設からまもなく40年!いまや「世界最高峰」と言われるこの大会。世界のアスリートたちは「OITA」という共通言語で呼ぶそうで、「ユー、今年はOITA出るの?」「もちろんさ。ユーはOITA走ったことある?」なんて会話が飛び交っているらしい(会話は想像)!
「最高峰」であるワケは・・・
1.いまだ破られない世界記録を保有
1999年の第19回大会で、ハインツ・フライ選手(スイス)が樹立した1時間20分14秒の世界記録は、男子フルマラソンでいまだに破られていないWPA(世界パラ陸上競技連盟)公認記録。
2.世界最大規模の大会
昨年の大会参加者は、223名。パラリンピックでさえ約50名しか出走できないところ、200名以上のランナーが集まる大会は世界最大規模!
3.重い障がいがある選手の参加も可能
パラリンピックの参加者が少ないのは、重度の障がいを追った人に参加資格がないという理由もあります。しかし「OITA」では、障がいの程度によって男女とも3つのクラスに分けられているため、多くの人が参加できる貴重な機会となっています。
4.多くのボランティアが協力
参加選手は200名超。そしてボランティアはなんとその10倍、2000人も参加!大会の創設に賛同した大分陸上競技協会は第1回からいまもボランティアで運営に携わっています。
第39回大会の見どころ徹底解説!!
大迫力のスタート
10:00にマラソンの選手、その3分後にフルマラソンの選手が出走しますが、200人近くもの選手が駆け出す光景は世界でも稀に見る大迫力! ゴーッという車輪の音が轟く中、緊張のレースが始まります! ちなみに、ハーフマラソンは約40分、フルマラソンは約1時間20分あまりでゴール地点に戻ってきます。
海岸コースを疾走するスピード
42.195kmのコースは、ほぼフラットな直線。トップ選手は、年々、高性能になっていく競技用車いす「レーサー」をたくましい腕でこぎ、時速30km以上のスピードでビュンビュン駆け抜けていきます。風の具合によって、ドラフティング(前を行く選手の背後について走る)という駆け引きも行われているので、そのあたりもチェックしてみて!
難所の坂とテクニカルコース
勝負のポイントは、スタート直後に渡る舞鶴橋と、弁天大橋。とくに弁天大橋は傾斜のキツいコース最大の難所。重度の重いクラスの選手が力を振り絞ってのぼっているときは、沿道で応援するほうにも力が入ります。また、30km地点を過ぎたあたりで、曲がり角の多いテクニカルコースがやってきます。ここでラストスパートをかけるか?! 先頭集団から脱落する選手が現れるか? 勝敗を決めるポイントとなりそうです。
誰でも観覧できる!開会式&閉会式
ガレリア竹町ドーム広場で行われる開会式と、レース後に陸上競技場で行われる閉会式は、無料で誰でも観覧することができます。このときに目の当たりにするのが、ボランティアたちの活躍!
通訳、協賛企業、団体、学生までさまざまな人が積極的に関わっているんです。長年参加している選手とボランティアの間では、「おかえり!今年も待ってたよ」「久しぶり!元気だったかい?」と気軽な会話が飛び交っているとか。レース後、競技場の芝の上で、選手もボランティアもその家族も一緒になって語らう様子は、とっても温かい光景です。
これが今年の注目選手!
2020年の東京パラリンピックを控えた今大会は、その出場権を争う「マラソンワールドカップ」の日本代表選考レースとなっていて、選手たちの意気込みも例年以上。10月24日現在、世界19か国、236名のエントリーが発表されています。
気になる注目選手は?!海外招待選手では出場回数30回以上にして世界記録保持者の“レジェンド”ハインツ・フライ選手(スイス)、7回の優勝を誇り昨年の覇者でもあるマルセル・フグ選手(スイス)らおなじみの面々に加え、世界ランキング2位のダニエル・ロマンチュク選手(アメリカ)の初参加が決まっています!日本勢では第36回大会の覇者・山本浩之選手(福岡県)、車いすアスリートの廣道純選手(大分県)らが優勝争いにどう食い込むか必見。女子の部も、世界ランキング1位のスザンナ・スカロニ選手(アメリカ)が初出場。2連覇中の嘉納翼選手(沖縄県)らとどんなレースを繰り広げるのか楽しみです!
また、今大会の最年少選手は14歳、最年長はなんと93歳の工藤金次郎さん(徳島県)!
第1回大会からずっと出場し続けている、おひげがトレードマークの宇賀治孝一さん(大分県)も、今年も参加予定です。ホームページに出場者リストが掲載されているので、ゼッケンと照らし合わせて、お名前を呼んで声援を送りたいですね。
沿道で応援しよう!
障がい者スポーツもすっかり定着し、マラソンだけではなく、さまざまな競技でパラアスリートたちが活躍しています。実は「OITA」では、その卵を育てる取り組みも始まっているんです。昨年から、初めて車いすマラソンに出場する選手を対象に、購入に費用のかかる競技用レーサーの無償貸出をスタートしており、数に限りはありますが、学校や施設に呼びかけてチャレンジする機会をつくっているのだとか。その中から実際、レースに参加した高校生も登場したそうです。中村先生の精神が、しっかりと息づいていますね!
さて、2019年の本番は11月17日。たとえばスタート地点や、難所の舞鶴橋、弁天大橋で観戦したあと、陸上競技場でゴールシーンを見るという観戦のハシゴも可能です。ぜひ沿道でアスリートたちに声援を送りましょう! 遠方の方は、テレビでも観戦できますよ。きっと今年も、たくさんの感動が待っているはずです!
- 大分国際車いすマラソン
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お問い合わせ:大分国際車いすマラソン事務局・大分県障がい者体育協会
〒870-8501
大分市大手町3-1-1
097-533-6006
HP:http://kurumaisu-marathon.com
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佐伯市生まれ大分市育ち。大学で関西へ、就職で東京を寄り道してから大分へUターン。地元雑誌社勤務ののちフリーランスに。「帰っても仕事がない」なんて言ってる人に、大分にもスゴい会社、スゴい人がたくさんいることを伝えたい!
第39回大分国際車椅子マラソン
開会式:2019年11月16日(土)16:00〜(ガレリア竹町ドーム広場)
レース:2019年11月17日(日)10:00〜(大分県庁前スタート)
BS-TBS、OBSで実況生中継