おおいたをたのしむ
2020年05月29日
美しき“神業” 切り絵アートの世界
用意するのは1枚の紙とアートナイフ。
下書きの線を丁寧に切り、時間をかけて形を作る。少しでも間違えればバラバラ。取り返しがつかない緻密な作業を何度も続けて生まれるのが、美しい切り絵アートです。
今回はそんな切り絵の世界に魅了され、躍動感のあるアート作品を手がける切り絵作家さんを尋ねてきました。
切り絵のデビュー作は灯籠!?
「スポーツだと筋肉の盛り上がりが表現されて動きが見えたり、人物は顔の輪郭とか頬の形、目の形で雰囲気がだいぶ変わってくるので、その人の可愛らしさが出るように工夫したり。人の表情や風景の特徴をうまく捉えて、陰影をつけて表現する。そこが難しいけど、面白いんです」。
切り絵の魅力について話してくれたのは、日出町で切り絵作家として活動する中島眞一さん。
中島さんは生まれつき手足が不自由なため、手と口とでナイフを操り、細かな線を器用にカットしながら、毎日仕事終わりに2〜3時間、切り絵の制作を続けています。
もともと絵を描くのが好きだったという中島さんが切り絵に目覚めたきっかけは、生まれ故郷の鹿児島で行われた夏祭りのことでした。
「中学生の頃、故郷の鹿児島であった夏祭りで灯籠を作る企画があったんです。周りの友人たちはみんな障子紙に色とりどりのカラフルな絵を描いていたんですが、そんな中で自分の灯籠が目立つにはどうしたら良いかなと考えて、逆に黒と白のモノトーンのデザインにすれば差別化できるのではないかと切り絵に挑戦しました。それがすごく楽しかったんです」。
灯籠で切り絵デビューを果たした中島さんは、その後独学で切り絵アートを極めていくようになりました。
最初は漫画や、「モチモチの木」という絵本などのイラストを参考にしながら制作をしていたそうですが、そのうち人物の切り絵にのめり込んでいったという中島さん。雑誌の写真をモチーフにすることで、中島さんの作品の特徴でもある陰影のつけ方を学んだそうです。
奥深き切り絵の世界
「切り絵っていろんな可能性があって、作家さんによっていろんな作り方をされているんです。だからこれが切り絵ですよというものがなかったりして。だから自己流でやってきました」と笑う中島さんに、その自己流の制作風景を見せていただきました!
中島さんの制作は、まず写真の撮影から始まります。
休日などどこかに出かけた際に見つけた風景や心が動かされたものを撮影しているそうで、その写真を拡大コピーし、カットする線を上からなぞるように下書きをしていきます。
この下書きが切り絵の重要なポイント!
紙を切った後にバラバラと紙が離れないように制作しています。
そのため、切った後の紙が全部つながるように考えながら下書きの線を作っていくのです。
ようやく下書きを終えたら、次はカット。アートナイフで細かな作業をしていきます。そうして切り終えた後は、いよいよ最終段階。裏側から色紙を何層も重ねて立体的な表情をつけたら完成です!
完成したものを見てみると、陰影がくっきりと表現され、いきいきとした町の表情が伝わる中島さんの作品。パッと見ただけでは切り絵とは思えないほどの仕上がりですよね。
制作期間は長いもので3ヶ月、短いものでも1週間ほどはかかるそうですが、
「その日その日で進むのはわずかだけど、その過程が面白い。徐々に出来上がっていくのが楽しいんです」と、地道な作業も全く苦ではないのだとか。
そんな中島さんは切り絵の活動を続けて、早35年。
毎日数時間、コツコツと作り上げてきた作品は百数十点にも及ぶのだと言います。
切り絵の新たな可能性を見つけたい。
毎年秋には臼杵市で「元気の出るアート!展」として、障がいを持つ作家さんたちと合同の展示会に参加したり、年末にはアートプラザで展示を行ったり、そのほかにも毎年様々な場所で中島さんの作品を見ることができます。
「昨年『おおいた障がい者芸術文化支援センター』が開所したことにより、大分県立美術館での展示ができるようになり、多くの人に見てもらえる機会が増えたほか、展示の仕方やグッズなど販促品の作り方、販売方法などを学べるセミナーや勉強会に参加できるようになったのは嬉しいですね。大分県内で芸術についての知識を深められる機会が今までは少なかったので、活用させていただいています」。
おおいた障がい者芸術文化支援センターとは
2019年、大分県内に居住する障がいがある人の芸術文化活動支援を目的に開所。制作に打ち込める場の提供や、イベントの企画・運営の相談支援に加え、ワークショップやセミナーを通じた人材の育成、発表や鑑賞の機会の提供などを行い、障がいのある人たちの芸術活動の輪が広がるようにサポートをしています。
アート支援を行うセンターができたことで展示会も増え、ジャンルを超えたアーティストとの交流から、多くの刺激を受けているという中島さん。今後は障がい者アートという枠の中での活動から飛び出し、障がい者と健常者のボーダーを無くした展示が増えていくと、もっとアートの幅が広がっていくと話してくれました。
最後に切り絵作家として挑戦してみたいことについて伺いました。
「切り絵には無限の可能性があります。だからこそこれからはもっと自分の切り絵アートの幅を広げていきたいですね。奥行きを生かして立体的に見えるものを作ったり、いろんな手法を取り入れてみたいです。作家さんたちの作品に刺激を受けながら、どういうものができるのか探っていきたいですね」。
中学生の頃に見つけた切り絵の世界に魅了され、日々楽しみながら新たな作品作りに挑戦している中島さん。
次の展示会ではどんな切り絵アートを披露してくれるのか。中島さんが手がける切り絵アートの、新たな展開にも注目です!
- おおいた障がい者芸術文化支援センター
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〒870-0029
大分県大分市高砂町2番33号 iichiko総合文化センター4階
(公財)大分県芸術文化スポーツ振興財団内
TEL:097-533-4505(平日9:00〜17:00)
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大分市出身。見たがり・聞きたがり・知りたがりの“たがり”精神で活動する、好奇心旺盛なライター&宅地建物取引士。不動産会社、出版社に勤めたのち、竹田市地域おこし協力隊として移住者支援を担当。久住の山々と星空が好き。だけど関あじはもっと好き。