おおいたをたのしむ
2024年04月26日
生まれ育った故郷で酒を醸す
株式会社井上酒造
日本国内有数の水郷、日田市にある井上酒造をご存知でしょうか?
日田市の中心部より10キロあまり離れた山間部にある井上酒造は、全国的にも珍しい女性3代が受け継ぐ酒蔵なんです。
今回お話を伺ったのは、7代目
江戸時代から続く「井上酒造」の歴史やお酒造りへのこだわり、県外に出てから気づいた生まれ育った故郷・日田で働くことの良さなどをお聞きしました。
代表取締役社長/蔵人 井上 百合さん
後悔のない人生を送りたいから、地元に帰ろうと思った
百合さんが幼いころは、蔵の中には立ち入り禁止の線が引かれていて入ることができなかったそう。
「蔵の奥からする甘い香りはなんだろう?」と思っていましたが、小学校入学前のある日、突然母から「今日から夕食にこれを出します。飲まなくていいからにおいを嗅いでみて」と言われ、杯を置かれたんだとか。
「この時に、私がいつも嗅いでいた甘い香りの正体はお酒だと分かったんです。感動して泣きじゃくったのを今でも思い出します」と、当時のことを語ってくれました。
その後、高校時代までを地元の日田市で過ごし、大学進学とともに福岡県へ。
就職・結婚後は東京へ転居することになりました。
もともとは、井上酒造を継いでもらいたいとの思いで東京に行くのは3年だけという条件のもと結婚を承諾したという両親でしたが、気が付いた頃には百合さんが東京で暮らして20年が経過していました。
百合さんの娘が20歳になった頃、「今まで育ててくれてありがとう。これからはママがやりたいことをやって。じゃないと、あとで後悔するよ」と言われたそう。
その言葉に背中を押され、心にずっと引っかかっていた「井上酒造」を継ぐという両親との約束を果たすため、百合さんは地元・日田へ帰る決心をしました。
「両親もよく待ってくれていたな、と思います。でも、1度県外に出たからこそ地元の良さが見えたり、ものづくりへの情熱が湧いたというのも事実です。外に出た期間というのは、私の中では無駄じゃなかった。地元から離れていろんな経験をして、自分の生まれ育った故郷へ帰ってきた時に、改めて素晴らしいところだなと感じました」と、百合さん。
「地元で働くのは、地元に貢献できているなっていう自分の自信にも繋がってきます。生まれ育ったところは、空気感やにおいが自分に合っている。家族が近くにいるというのも心強いですよね」と話してくれました。
はじめての酒造り
実家を継ぐと決めたものの、百合さんにとって酒造りは未知の世界。はじめは、当時東京にあった「酒類総合研究所」(※現在は広島県にあります)で研究生として清酒造りを学びました。その後井上酒造へ戻り、各部署を回って現場での経験を積んだそうです。
「本当に分からないことだらけだったので、先輩達には色々と教えてもらいました。みんな年下だったけど、そんなことは関係ないですよね。経営学も醸造学も勉強していなかったので、地元に戻ってからの10年間はあっという間でした」。
先代の母の後を継いだ娘の百合さんが7代目の杜氏として蔵を守り、さらに百合さんの娘からも「次は私が井上酒造を継ぎます」と宣言されているのだとか。
「酒造りは、かつては女子禁制だったんです。母が繋いでくれたバトンを私が落とすわけにはいかない。私もしっかりと娘に繋ぎます」と百合さん。
幼い頃から厳しい世界を見てきたからこそ、この言葉に強い力を感じました。
お酒を通して300年・400年と長く続いていく、地元に根差した企業でありたい
井上酒造で製造・販売する製品や、こだわりをお聞きしました。
※写真はトヨノホシ百助と長期貯蔵百助
こちらは、初代社長 井上
「百助」は2009年から10年連続で「優等賞」を受賞したそうですよ。
各年でラベルの色を変えているとのこと。
主屋では、毎年春に開催される蔵開きで社長自らママになってBARを開くそう。
井上酒造を代表する清酒「
「百合仕込み」の原料となるのは、
「日田の蔵人は日田の米で日田の酒を造る、これこそが地酒だと思っています。どんな太陽を浴びてどんな水を使って、どんな土の田んぼからできる米なのか。全てがその先に繋がっていく、地元を醸すと言っています。日田を醸す、故郷を醸すというこだわりがあります」と、百合さん。
特別に、「百合仕込み」を製造するところを見せていただきました!
少人数でも管理がしやすいよう、「百合仕込み」の製造は一部屋で完結できるようになっているんだとか。
井上酒造の蔵は、
百合さんは「酒造りは子育て」だといいます。
「手をかけてあげると反応してくれるんですよね。プツプツ気泡を出しながら、発酵していく様子を見るのが好きです。成長を感じられて嬉しい。製品として出荷するときは、我が子を送り出しているようで感慨深いものがあります」。
原料から育てていることもあって、愛着が沸きますよね。
「百合仕込み」は、毎年春に開催される蔵開きでその年にできたものを数量限定で販売しているとのこと。
予約でいっぱいになることもあるそうなので、ご興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。
登録有形文化財に指定された主屋
井上酒造敷地内には、2016年に登録有形文化財に指定された主屋・煙突・清酒蔵があります。
大正時代に建てられたという、こちらの主屋。
1階部分は、日銀総裁や大蔵大臣としても活躍した井上 準之助の遺品などが展示されている資料館「
入館料は300円(要予約)。
遠くを見据えるという意味をもつ「
働きやすいサポート体制づくり
井上酒造での働き方について、従業員のみなさんに直接お話を聞くことができました。
左から、社長・百合さん、平嶋さん(勤続10年)、川村さん(勤続8年)、若杉さん(勤続10年)
子育て中だというみなさんは、パートタイムで勤務。
勤続年数は10年・8年と、長く勤めていらっしゃいます。
長く続けられる理由を聞いてみると…
- 子どもの都合(体調不良など)で代わってくれる人がいる
- 理解してくれる環境がありがたい
- 人間関係が良好
- 土日出勤がない(部署によってはあるそう)
- 従業員の声が社長に届く、風通しのいい会社
という声がありました。
また、「その人しかできない仕事を増やさない。広く仕事を把握して、みんなでカバーしていこう」というサポート体制づくりができているといいます。
自分の担当部署はもちろん、全員が全ての部署の仕事ができるとのこと。
「誰かが休んでしまったから、その部署は今日なにも仕事が進まなかった」ということのないようにしているんだそうです。
さて、続いては全く違う職種から転職したという川部さんにお話を聞きました。
川部
製造部 昭和学園高等学校出身
「ここに来る前は福岡で美容師をやっていました。昔からお酒を飲むことが好きで、毎日飲んでいたんです。ある時、地元に戻る機会があって”どうせなら好きなことを仕事にしたい”と思ったので、好きなお酒を造る仕事を選びました。そこで転職した先が、井上酒造です」と、川部さん。
社長の百合さんと一緒に「百合仕込み」を製造しているそう。
百合さんの印象を聞いてみると「明るくて太陽みたいな人。毎日楽しく酒造りをしています」とのこと。
本当に、とっても楽しそうに話してくれた川部さん。
好きなことを仕事にするということが実現して、心から楽しいというのが伝わってきます!
ちなみに、お酒は好き嫌いなくなんでも飲めるそうですよ。
井上酒造の一員になりませんか?
井上酒造では、一緒に酒造りができる仲間を募集しているとのこと。
「どんなことをしているのか、興味があれば見学に来てくださいね。ものづくりが好きな人やお酒が好きな人、大歓迎です」。
SNS(Instagram・Facebook)では、お酒を製造している様子はもちろん地域の行事に参加した時の楽しそうな様子なども投稿されています。
ぜひ、こちらも併せてチェックしてみてくださいね!
- 井上酒造
WRITER
- 日名子 真衣記事一覧
猫とパンを愛してやまないママライター。食べ歩きと写真を撮ることが趣味です!美味しいものを探して、相棒のカメラと一緒に大分県内を旅します。将来の夢は、縁側のある家で猫とのんびり暮らすこと。
株式会社井上酒造
1804(文化元)年に創業し、日田盆地特有の寒冷気候と、英彦山 からの伏流水を利用して清酒・焼酎・リキュールの製造販売を行う酒蔵。原料の米を育てるところからこだわった「百合仕込み 」が人気製品。2024年に創業221年目を迎え、長く続いてきた伝統を受け継ぎながら、地域貢献にも力を入れる企業です。