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おおいたをたのしむ

2025年10月24日

人生を変えたどらやき。気持ちをつなぎ、紡いでいくもの。
どらやき㊉みならい

大分県宇佐市にある「どらやき㊉みならい」。
ここで作られるのは豊後高田市で60年、多くの人に愛され続けた「まるじゅう製菓」の味を受け継ぎ、1枚1枚手作業で丁寧に焼き上げられたどらやき。販売店舗は持たず、イベント出店やSNS、ECサイトで販売を続けています。
その背景には、多くの人の感情が動き、つながりながら生まれたいくつものストーリーがありました。

人生を変えたどらやき。気持ちをつなぎ、紡いでいくもの。どらやき㊉みならい

“おいしい!”その気持ちが人生の転機に

「どらやき㊉みならい」が本格的に誕生したのは2022年のこと。
その始まりは、熊本県阿蘇市出身で看護師をしていたまなみさんと、宇佐市出身で名古屋で車の開発をしていた岩根 豊明さんが夫婦となり、岩根さんの地元・宇佐市に帰ってきたことからスタート。将来を約束された仕事をしていた岩根さんですが、アメリカ転勤の話をきっかけに自分の人生を見つめ直し、小さい頃からの夢だった起業の道を選択したといいます。
「ずっと自分で何かをすることが夢でもあったので、アメリカには行かず地元へ帰る決断をしました。でもその時はまだ将来のことは何も決まってなくて、自分の人生の中でも“空白の10ヶ月”と呼べる期間でしたね(笑)」。
ちょうどその頃、2人の運命を変える出会いが訪れます。それが、岩根さんが幼い頃から食べていた「まるじゅう製菓」のどらやき。まなみさんがそのどらやきを口にした瞬間に感じた“おいしい!”という感情が、心を強く突き動かしたといいます。
「今まで食べてきたどらやきとは全く違う味でしたね。とにかく美味しくて、初めてなのにどこか懐かしさを感じる味に驚きました」。

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看護師時代のまなみさん

看護師からどらやき職人の道へ

どらやきの味に感動したまなみさんは、この味を受け継ぎたいという一心で「まるじゅう製菓」へ。お菓子作りの経験も全くなかったというまなみさんでしたが、そこに躊躇はなく自然と体が動いたと当時を振り返ります。
「昔気質の師匠は、最初は全く相手にしてくれませんでした。コロナ禍の時期でもあったので、安定した仕事に就きなさいと」。
それでも諦めきれず何度も師匠の元へ足を運ぶ愛美さんの情熱に心打たれた師匠は、ようやく弟子入りを認めてくれたといいます。
「60年間弟子をとったことがなかった師匠が、“教える限りは自分の命に変えて教えてやる!”と言ってくれてとても嬉しかったですね」。
こうして師匠の最初で最後の弟子となったまなみさん。そこからが、どらやき職人への本当のスタートになりました。

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師匠の感覚を学ぶ、修行の日々

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「師匠は何を言っても、“こんな感じ”“わかるやろ?”“やってみない!”(やってみなさい)しか言わない人でした(笑)。餡子や生地づくりも全てが感覚なので、それを身に付けるのは至難の業。当たり前ですが、最初は失敗の連続でしたね」。
長年培ってきた師匠の技術は感覚そのもの。困り果てたまなみさんを救ったのは、学生時代から工業系の世界で学んできた岩根さんのアイデアでした。
「和菓子には四季があると師匠が言ってたんですね。温度や湿度は季節によって変わるので、銅板の温度や入熱時間を数値化していけば師匠の味に近付けるのではと。ちょっとエンジニアの血が騒ぎました(笑)」。

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試作中のどらやきたち

師匠の技術をすべて数値化しながら、トライアンドエラーを繰り返したという修行の日々。データと手の感覚を重ねながら研鑽に励んでいると、合格の日が突然訪れました。
「これなら全国どこに出しても恥ずかしくない、勝負できるどらやきだと言ってもらいました。でも、師匠は絶対私のどらやきを食べないんですよ(笑)。おいしいどらやきは見れば分かる、食べなくても味が分かると言うんです。だから今でも食べてもらってないんですよ」。
おいしいという感情は人それぞれ。食べた人の感想が答えなので、自分からおいしいという言葉は絶対に口にしないという師匠。長きにわたってお菓子を作り続けてきた師匠の目に認められて、「どらやき㊉みならい」は誕生しました。

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SNSでの発信が多くの人の心へ

どらやき職人を目指す道のりをSNSで発信し続けていた2人。その様子は多くの人へとつながり、起業から2ヶ月後のクラウドファンディングでは、目標金額を大きく超えた1770%の達成率を記録。初めての販売は地元・宇佐で開催された“めだかフェス”。真夏で暑い時期の出店にも関わらず、オープンから30分で300個のどらやきがあっという間に売り切れてしまったといいます。
「SNSを見てくれていた県外の方が宇佐まで来てくれたり、中にはご祝儀を持ってきて下さった方もいて本当に驚きました。有り難い限りですね」と、まなみさん。様子を見にきてくれていた師匠も驚きのスピード完売。何よりの師匠孝行になった、初めての販売でした。

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「どらやき㊉みならい」の商品たち

「どらやき㊉みならい」のどらやきはシンプルな材料でできています。余計なものは加えず、昔ながらの材料で作るからこそ生まれる味わいは唯一無二の美味しさ。

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アレンジ商品も九州産の食材を使用しています。催事限定商品もあるので、まずはSNSをチェックしてみよう!

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伝統を受け継ぎ、後世へ伝えたい想い

大分を始め、東京や福岡の百貨店などの催事出店など様々な場所で多くの人たちにどらやきを届けている2人。焼き手はまなみさん、ブランディングやコンサル関係は岩根さんが担当しています。
「人間の原理原則ではないですが、人がどういう時に行動するのかを考えた時、それは感情が動いた時だと僕は思っています。誰かにとっては何でもないものでも、他の誰かにとっては10万円の価値があるもの。それは正しさではなく感情ですよね。だから妻の想いをいかに正しく届けるか、真っ直ぐな気持ちを湾曲しないように届けたいと常に思っています」。

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各地の催事の様子

初めて師匠のどらやきを食べた時に感じた“おいしい!”というまなみさんの感情を、ちゃんと届けていきたいと岩根さん。今後はスケール拡大というよりも、自分が感じた美味しいという感情を、子どもたちや大切な人たちへ伝えていくことが使命だといいます。
「PRではなく、人が人に伝える気持ちの方が強く伝わるもの。色んな人に、また私たちのどらやきを食べたいと思ってもらいたいですね」。
“どらやき”というコンテンツを通して、師匠から受け継いだ味を誰かに伝えていくことが、誰かのハッピーにつながること。それが何よりも幸せだと笑顔をみせます。

人生を変えたどらやき。気持ちをつなぎ、紡いでいくもの。どらやき㊉みならい

また地元で暮らす選択をした岩根さんは、「創業支援制度が充実していることや家賃などのランニングコストの良さ、何より大分、九州には魅力的な食材があるので商品開発のしやすさが何よりの魅力ですね」と語ります。
一方で、地元を離れ暮らすまなみさんも、海や山のものが豊富にあることや、子育てしやすい環境が揃う大分での生活は充実の日々だといいます。

人生を変えたどらやき。気持ちをつなぎ、紡いでいくもの。どらやき㊉みならい

純粋に美味しいと思った気持ちが、多くの人を動かし生まれた「どらやき㊉みならい」。その真っ直ぐな感情はカタチとなり、今、多くの人へ届けられています。時代をつなぎ、後世に受け継がれていくみならいのどらやきは、口にすれば納得の逸品。ぜひ一度、お試しあれ。

WRITER

  • 塩月 なつみ
  • 塩月 なつみ記事一覧

    かぼすポン酢をこよなく愛する生粋の大分女。美味しいものが大好きで、おなかがすくと途端に不機嫌になります。大分トリニータを中心に、企業や観光、飲食などオールジャンルで取材撮影中!

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