おおいたをたのしむ
2019年05月17日
磯崎新さん、プリツカー賞を受賞!
先日、大分県出身の世界的建築家・磯崎新さんがプリツカー賞に選ばれたという嬉しいニュースが届きました!
プリツカー賞とは、建築界のノーベル賞と言われているとても権威ある賞。御年87歳の重鎮でありいまだ世界の最前線でご活躍中の磯崎さんの受賞は、日本人としては8人目。ということで、今あらためて注目度が高まっている磯崎さんですが、そもそも!約60年前から脚光を浴びてきたスゴい、いやスゴすぎる建築家なのです。
磯崎新さんは、1931(昭和6)年、大分市生まれ。現在の大分県立美術館OPAMの裏通りあたりに自宅があったそうです。大分第一高等学校(現・大分上野丘高等学校)在学中は、絵を描くことに夢中で、画材店「キムラヤ」を活動の中心とした美術サークル「新世紀群」にも参加していたとか。その仲間には、のちに美術家となる吉村益信さん(※1)や赤瀬川原平さん(※2)らがいたというのも興味深い話ですね。
高校卒業後は、建築家を志して上京し、東京大学工学部建築学科に進学します。そして1954年、代々木第一体育館や東京都庁の設計で知られる「丹下健三研究室」へ。ここで9年間を過ごしたのち、1963年に独立して磯崎新アトリエを設立したのです。
以後、故郷である大分市の「岩田学園」や「大分県立大分図書館」に端を発し、「北九州市立中央図書館(福岡県)」「つくばセンタービル(茨城県)」、そして「ロス・アンジェルス現代美術館(アメリカ)」「サン・ジョルディ・スポーツ・パレス(スペイン)」など活躍の場を世界にも広げ、現在までに数え切れないほどの名建築を手がけてきました。
※1 吉村益信氏(1932-2011):大分市出身。武蔵野美術学校を卒業後の1957年、新宿に土地を購入し、磯崎新に住居兼アトリエ「新宿ホワイトハウス」の設計を依頼した。1960年に前衛芸術集団「ネオ・ダダ」のリーダーとして話題に。
※2 赤瀬川原平(1937-2014):横浜市出身。幼少期〜高校入学時までを大分市で過ごし、吉村益信に憧れて武蔵野美術学校に進学。文芸にも傾倒し小説『父が消えた』で芥川賞を受賞。兄で小説家の赤瀬川隼(直木賞作家)は磯崎新と高校の同級生だった。
「磯崎新」がスゴい(わたし的)3つの理由
磯崎新さんの何がスゴいの?!と問われたら、それは「唯一無二の存在」であること。唯一無二たるワケは……
その1 知識量がスゴい!
歴史や美術や宗教学……とにかく幅広い知識に精通していて、その知識量がスゴい! 建築にとどまらずデザインや思想、美術などの世界でもご活躍です。しかも、それぞれのジャンルでトップを走っていらっしゃるという方は、世界を見渡してみてもそうそういません。
その2 常に挑戦しているところがスゴい!
建築家といえば、それぞれ象徴的な意匠で知られることも多いですよね。たとえば、来年開催される東京オリンピックのメインスタジアムを手がける隈研吾さんの建物は、木材が印象的。大分県立美術館OPAMを設計し、こちらもプリツカー賞の受賞者(2014年)である坂茂さんは、紙管を用いた「紙の建築」で知られています。その点、磯崎新さんの建物は、パッと見て磯崎建築とはわかりにくいかもしれません。しかし、一つひとつの建築に独自のロジック(思考の筋道)を用い、新しい設計を生み出し続けているところがスゴい!
これはのちほど、作品とともに見ていきましょう。
その3 土地への思いがスゴい!
ロジックに加えて、建築をする地域、土地への思いも込められているのが磯崎建築の素敵なところでもあるんです。たとえば、バルセロナオリンピック(1992年)の会場となった屋内競技場「サン・ジョルディ・スポーツ・パレス」。波打った屋根の形は、紀元前からの歴史と豊かな自然が残るモンジュイックの丘のかたちを模したもの。名前にもこの地方の守護聖人「サン・ジョルディ」の名をつけています。
ほかにも、挙げればきりがないほどたくさんの魅力を湛えた磯崎建築の素晴らしさは、プリツカー賞の受賞理由に、「半世紀以上に渡り、磯崎氏は建築作品、著作、展覧会、会議の企画やコンペの審査を通し、建築界に多大なインパクトを与え、また多くの若い建築家を世に送り出してきた。建築家の重鎮でありながら、新しいアイディアを取り入れることにもオープンであり続ける。その作品は建築だけでなく、哲学、歴史、理論、文芸への深い造詣に基づいている。コラージュのような表面的なことではなく、真の意味で西洋と東洋の建築を結びつけた」とあることからも明らかです。
イソザキワールドに浸ろう!
さて、そんな磯崎建築に身近で触れられるのが、大分県民の超特権!なかでも「アートプラザ」は、磯崎さんが日本建築学会作品賞を受賞した初期の代表作であり、出世作。建物自体が作品であり、無料で鑑賞できる常設展「磯崎新建築展示室」でその世界観に浸ることができるんです。
展示室には、代表作の模型がずらりと展示されていて、それはそれは壮観!
[80年代の美術館建築][アンビルトの美術館建築][ホール建築][スポーツ施設建築][図書館建築]などテーマごとに鑑賞できる模型展示と、それに関して記された磯崎さん自身の「ロジック」も紹介されていて、とても興味深い内容です。模型に囲まれているだけで、なんだかシアワセな気分♡
たとえば、このアートプラザ。現在はアートホールですが当初は大分県立大分図書館で、これを設計するにあたって磯崎さんは「プロセス・プランニング論」というものを提唱しました。図書館は、蔵書がどんどん増えていくという性質があります。しかし土地は限られていて、増築か改築をすることでしか対応できません。そこで、磯崎さんは図書館の機能の変化に対応し、成長していく建築を考えたというのです。その象徴が、ボックスビームと呼ばれる梁の断面。この断面が成長を暗示するように設計されたのです。
廊下の鮮やかな緑と赤は、大分の自然をイメージした色かもしれません。
あ、あと冷たそうに見えるコンクリート打ちっ放しの壁には、木目模様がつけられていて温かみを感じます。
展示室の間には図書室も。実はここにある本はすべて、磯崎新さんご本人から寄贈されたものなんです!ご本人の著書、そして知識を裏付ける蔵書の数々は古建築、西洋美術、宗教学などジャンルも多岐にわたっています。シアワセなことに、この蔵書はいつでも自由に閲覧可能。
しかも!閲覧できるテーブルも、磯崎さん自身が設計し、自宅にあったものなんです!!マリリンモンローのくびれをイメージしたという「モンローチェア」に座って、しばしの読書タイム!
図書館建築の最終形だというのが、新築移転した現在の大分県立図書館。
閲覧室には100本の柱があるのみで、空間を仕切る壁はひとつもありません。つまり、いかようにでも変化できるわけですね。
また、閲覧室に続くエントランスが広々とした空間となっていますが、これはあのミケランジェロが設計した図書館の前室に倣ったもので、図書館に入る前の心の準備をする場所なのだとか。
こうやっていろんなことを知ると、普段利用している施設にとても興味が湧いてきませんか?! もう、その世界観に触れた感動はここでは言い尽くせないので、ぜひ「アートプラザ」へ行って見てほしい!です!
また、大分市美術館でもこの秋、磯崎新さんに関する特別企画展が開催される予定ですし、県内にはたくさんの磯崎建築があるので、プリツカー賞の受賞イヤーに、皆さんも、もっともっとその世界観に浸ってみてください!
大分県内の主な磯崎建築
- 岩田学園/大分市
- 大分県立大分図書館(現アートプラザ)/大分市
- 大友宗麟の墓/津久見市
- 大分市情報学習センター/大分市
- 由布院駅舎/由布市
- ビーコンプラザ/別府市
- 豊の国情報ライブラリー(大分県立図書館)/大分市 など
磯崎新 第3の空間展(仮)
会期:2019年9月27日(金)〜11月24日(日)
会場:大分市美術館 企画展示室
- ART PLAZA
-
〒870-0046
大分市荷揚町3-31
097-538-5000
営:9:00〜22:00※磯崎新建築展示室は〜18:00
休:年末年始(12/28〜1/3)
HP:http://www.art-plaza.jp
WRITER
- rain記事一覧
佐伯市生まれ大分市育ち。大学で関西へ、就職で東京を寄り道してから大分へUターン。地元雑誌社勤務ののちフリーランスに。「帰っても仕事がない」なんて言ってる人に、大分にもスゴい会社、スゴい人がたくさんいることを伝えたい!